このたび、手持ちの物件を1つ売却することになったのですが、仲介さんから気になる話を聞きました。 どうも不動産業界では、2024年7月のプロパンガスの法改正により売買時にトラブルが発生しているケースがあるらしく、、、
法改正の内容と、どんな影響やトラブルが起こっているのかを共有したいと思います。
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1棟ものの収益物件のガスって、プロパンガス(LPガス)が多いですよね。 その理由の1つとして、プロパンガス業者がアパートオーナーに対して、様々な設備(給湯器、配管、エアコン、TVモニタホン、etc...)を無償貸与という形でサービスするから、というのがあります。
オーナーは設備を無償で物件に導入できるし、プロパンガス業者は顧客を獲得できるし、持ちつ持たれつ…みたいな。
しかしながら、2024年7月に法改正が行われ、こういったプロパンガス業者による新規の無償貸与が禁止され、不動産業界でも「プロパンガススキームの終焉か」だのなんだのと話題になったのは、ご存知の方も多いと思います。 (ていうか「スキーム」って言葉を使うととたんに胡散臭くなるのは何故なのかw)
ただまぁ、既存の契約に影響するわけではないため、プロパンガスのアパートを持っている大家さんも、ひとまず静観、、、というところでしょう。
ところがこれ、売買時にトラブルになっているケースがあるようです。
売主が残債精算?
先日、物件売却を依頼していた仲介業者から下記のような連絡がきました。(メール抜粋)
この法改正により、売買時のプロパンガス供給契約やガス会社が設置した設備等の取扱いについて、以前のように買主様に同条件で承継して頂くことが出来ない可能性があり、場合によっては、売主様が設備代金の残額を支払わなければならないケースがあるようです。
実際に私の仲間内の不動産業者が今月の売買でトラブルになったケースを聞きまして、万が一、設備代金の残額を○○様が負担しなければならない場合、売買価格にも影響して来るかと思いましたので、一度プロパンガス会社にご確認をして頂いた方が宜しいかと思い、お伝えをさせて頂きました。 (プロパンガス会社により対応が違うようです)
えぇぇ。。。
既存契約だから大丈夫と思っていたら、売買のタイミングで残債精算の可能性とな!?
もちろんガス会社との契約内容によりますが、これってウン十万円から場合によってはウン百万円の出費が生じるようなインパクトのある話です。
プロパンガスの法改正の内容は?
そもそもどういった法改正が行われたのか? 今回のプロパンガス法改正について、経済産業省が出している資料を見てみましょう。
・液化石油ガス法「改正省令」の概要(2024年4月2日交付)
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240402001/20240402001-2r.pdf
ざっくり要点としては、
- ガス契約を取るために、過大なサービス(設備類の無償貸与など)をしちゃダメよ
- ガスの料金明細に、ガス料金以外の設備料金(例えばWiFiやエアコン分など)をきちんと別けて表示しなさい
ということです。
ただこの無償貸与契約は、法改正後の新規契約については禁止ですが、法改正前の既存の契約についてはOKだそうです。 まぁそりゃそうでしょうね。 そこ遡及で適用したら事後法になってしまいますから。
料金明細の分別記載については、新規・既存関係なく適用になります。 まぁこれは毎月の明細だから仕方ないですね。
契約書の内容とガス会社の対応は?
さて私の物件の話の続きです。
まずは私が法改正前にプロパンガス業者と交わした契約書を確認。 すると物件売買時の対応として、下記のような記述になっていました。 (甲:オーナー 乙:プロパンガス業者)
甲が本件建物を第三者に譲渡する場合
甲は、甲が所有する本件建物を第三者に売却する場合、甲は第三者との建物売買契約に本契約を引き継ぐことを明記しなければならない。 同時に甲は建物売却について乙に通知しなければならない。 さらに建物売買後において乙は第三者と本契約を締結します。 もし、本契約が第三者に引き継ぎされない場合には、甲は本条第1項に基づき貸与設備代金を乙に支払わなければならない。
① 第三者が乙からのLPガス供給を継続し本契約を継承するときは、本契約を乙と第三者との契約に改め売買は発生しない。
② 第三者が乙からのLPガス供給を継続しないときは、甲は乙から消費設備を第4条第2項の消費設備買取価格で買取する。 燃焼機器等がある場合は第4条第3項の燃焼機器買取価格で買取する。
③ 第三者が乙からのLPガス供給を継続しないときは、本条第3項と同じ
つまり、
- オーナーが変わる場合、既存の契約を引き継ぐこと
- 既存の契約を継承する場合、契約者を変更するだけで設備の売買は発生しない
という旨が書かれています。
これを読む限り、既存の契約を継承するのであれば、途中で契約者が変わっても問題なさそうではあります。
しかし念のため、契約しているプロパンガス業者の担当者に物件売買時の対応について確認。 すると以下のような回答が。
弊社につきましては新しい所有者様が○○様と弊社とで締結した内容をそのまま継承していただければ○○様に残存請求を求めたりすることはございません。
ですので新しいオーナー様が決まりましたら私へ教えていただき新しいオーナー様と引継ぎ契約書を締結させていただきます。
つまり、というかやっぱり、売主から買主へ契約を継承するかぎりは特に問題なさそうです。 契約書どおりの対応ですね。
じゃぁ前述の仲介さんが言っていたトラブルのケースはなぜ起こったのだろう?
そもそも、法改正前に結んだ契約に継承と書いてあるのであれば、勝手に強制精算とするほうがおかしいのではないか? そのガス会社の契約内容を見ていないので詳細は分からないが、貸与契約なんてどこのガス会社も似たりよったりじゃないのかね。。。
考察してみるに、オーナー変更時の契約の引き継ぎについて、「契約継承」と解釈するのか、「契約解除&新規契約」と解釈するのかで判断が分かれそうではあります。
前者なら法改正前の契約であるため、改正法の影響は受けない。
後者なら法改正後の新規契約となり、改正法の影響を受ける。
あとはやっぱり契約書の内容次第か。
…というわけで現状、契約を継承できるかどうかガス会社によって対応が分かれるようです。 改正から間もないので、ガス会社も右往左往しているのかも。。。 もし物件の売買を予定しているなら、事前によく確認しておいたほうがよいかと思います。
法改正がもたらす影響は?
今回の法改正は、我々含め、各所にどのような影響が考えられるのでしょうか?
売主への影響
- 契約引継可能な場合、売却時には残債の精算が不要になる
- 契約引継不可の場合、売却時には残債の精算が必要となるので、売却価格に織り込む必要性が出てくる
買主への影響
- 契約引継可能な場合、購入時には残債を引き継ぐ必要がある
- 契約引継不可の場合、購入時には残債を引き継ぐ必要がなくなるが、その分、物件価格が上がる可能性がある
- 新築物件の場合、建築コストが上がり利回りが下がる可能性がある
オーナーへの影響
- 設備の交換等が必要になった場合、オーナーの自腹となる
- オーナーは負担が増えるため、家賃に転嫁する必要性が出てくる
- 残債がないので、プロパンガス業者の切り替えはしやすくなる
- ただし切り替えても設備貸与がないためメリットは薄い
入居者への影響
- 上乗せ設備料金がなくなり、ガス料金が安くなる
- しかしそのぶん家賃が上がる可能性がある
プロパンガス業者への影響
- 無償貸与の負担がなくなるが、上乗せ料金も取れなくなる
- プロパンガスにするメリットが薄くなり、顧客を都市ガスに奪われる
- 現在は様子見だが、将来的には何らかの対策を取る可能性(新たなスキーム爆誕?)
建築業者への影響
- 物件を建てるときに給湯器や配管をプロパンガス業者へ負担させることができなくなり、建築コストが上がる
- 建築コストが上がると、家賃を上げない限り、買主に提示できる利回りが下がる
・・・こんなところでしょうか。
なお残債の精算が必要になる場合、契約書に記載されている残債の償却計算式が重要になります。 ガス供給契約を継続する限り、オーナーが残債精算で自腹を切るシーンは生じないため、普段はあまり意識しませんが、実際精算が必要になると、契約書に記載の残債の償却計算式によってその金額が決まってしまいます。
残債の減りやすい式になるか、減りにくい式になるかがここで決まります。 これは契約時に定められるものであるため、意識して注意しておくことが必要です。
そのへんは私の過去記事で解説しているのでよければご参考に。
ちなみに私の所有物件は契約時に償却計算式をチェックし、式がおかしい時は修正をかけているので、万一精算を求められても傷は浅く済むようになっています。笑
結局のところ…
結局、今回の法改正で誰が得をし誰が損をするのか? プロパンガススキームを封じられたオーナーが損をするのでしょうか?
私は大局的にみれば、誰も得も損もしないのではと思います。 理由は、受益と負担のセットが組み変わるだけだからです。
どういうことかというと、今回の法改正によって、
- これまで:入居者が使う設備をガス会社が負担してガス料金に乗せる
- これから:入居者が使う設備を大家が負担して家賃に乗せる
という形に変化していくということです。
設備は入居者が使用・受益しているのだから、その使用料は、どのような形であれ入居者が負担するべきだと思いますし、実際そういう方向に落ち着くでしょう。
結果、ガス料金に含まれていた設備使用料が家賃に含まれるようになるだけですね。 まぁ本来あるべき姿に是正された、、、と言えなくもないですかね?
ただ、オーナーが損しないためには、設備分を家賃に転嫁する必要はありそうです。
いずれにしても今後、各シーンに影響がありそうですので、引き続き注目しておく必要はあるでしょう。
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以上、「プロパンガスの法改正および売買時のトラブルについて」でした。
ご参考までに\(^o^)/