はじめに
日本国の象徴である天皇。 近年、その皇位継承問題として男系女系の議論が出てきています。
ただ、この問題、一般人にはどうもよくわからないところが多いのではないかと思います。
そこで、そもそも男系女系とは何なのか、 また今後のいわゆる天皇制のあり方について考察してみたいと思います。
なお私は皇室の専門家でも何でもありません。 素人なりに勉強して論点を整理してみたということです。 内容の正確さについて保証しているわけではございませんのであしからず…m(_ _)m
※本コラムは私の個人的な見解を述べたものです。 一つの意見としてお読み頂ければ幸いです。
男系とか女系って何?
天皇の皇位継承問題に絡み、「男系天皇」とか「女系天皇」という言葉が出てきます。 これは一体何なのでしょうか?
家系図において、男系を一般的に図解すると以下のようになります。
つまり男系の継承とは、家系において男性を主軸に置き、 父親から息子へ代々家を継いでいく、という形です。 家系において親子のつながりを辿っていくと、 初代から現在まで、一世代も欠けることなく男子でつながることになります。 (正確には、「男系男子の娘」までは男系に含まれるのですが、 男系の継承は男子のみが可能なため、男系男子に限定して図解しています。 女系も同様です。)
それに対して女系の継承とは、家系において女性を主軸に置き、 母親から娘へ代々家を継いでいく、という形です。 家系において親子のつながりを辿っていくと、 初代から現在まで、一世代も欠けることなく女子でつながることになります。
現在、日本の天皇は、初代の神武天皇から今上天皇(現在の天皇)までの系譜において、 親子間はすべて男子でつながっており、男系天皇として構成されています。
天皇の権威の源泉は何か
天皇は、国内はもとより、世界の要人の中においても、 ローマ法王以上の権威として位置づけられています。 その権威の源泉は何なのでしょうか?
なぜいきなり権威の話になるかというと、 これが男系女系の伝統と深く関わっているからです。
実は日本は、世界最古の王朝です。 初代の神武天皇が即位したのは紀元前660年にあたり、 現在までに2600年以上の歴史があります。
そういった 数千年という長期に渡って受け継がれてきた伝統、 それも男系で受け継がれてきたという伝統が、 天皇の権威の源泉 ではないかと思われます。 このように長期にわたって一系統の統治者の元に国が継続した例は他にありません。 これは 「万世一系」 と呼ばれる伝統で、古来より一つの系統で国が維持されてきたということです。
そして、この伝統と権威があるからこそ、 日本という国が天皇を中心として1つにまとまっている と言えます。
なお、男系か女系かということについて、それ自体に優劣はないと私は思います。 たまたま日本は、男系で伝統を紡いできたので、天皇と言えば男系なのです。 これは男系が女系より優秀だからとかそういうことではなくて、 一つの系統でずっと紡いできたことに伝統としての意味があるのです。 もし初代から女系で伝統を紡いできたと仮定した場合、 現在の天皇は女系天皇として君臨し、 現在の男系天皇と同じような権威を持っていることでしょう。
要は、「一つの系統で長い間紡がれてきた」 という伝統そのものが権威の源泉なのです。 つまり、 天皇の男系女系の問題とは、言い換えれば伝統と権威の問題 であるわけです。
時折、皇位継承問題を男女差別の文脈で捉えている人がいますが、 それはお門違いというものです。
女系天皇を容認するとどうなるか?
さて、では現在の状況で、女系天皇を容認するとどうなるかというと、 「今までの伝統が消滅し、またイチからやりなおし」 という状態になります。
なぜかというと、今までの皇統において、 そもそも女系の系譜自体が存在していない からです。 (ずーっと昔の女性天皇の子孫がどこかにいるかもしれませんが、 いたとしても完全に民間でしょうし、 ずっと女系で紡がれてきたかどうかも分かりませんので、 実質的に存在しないのと同じです。)
つまり、「女系天皇」という呼び方自体が、便宜的なものにすぎないのです。
仮に次の天皇が女性になったとしても、そこが女系の初代となります。 「女系天皇容認」というのは、 「女系天皇創設」であると理解したほうが分かりやすいかもしれません。 そして伝統という面で考えると、 そのまま向こう千年くらい女系で紡がなければ、伝統にはなり得ないでしょう。
つまり、今になって女系天皇を認めるというのは、 まさに 木に竹を継ぐような話 なのです。
さらに言えば、女系天皇を容認するといっても、 男系天皇も引き続き容認されているとすれば、 皇統には男系女系が入り交じることになります。
つまり女系天皇を容認するということは、 実際には、 男系や女系といったこだわり自体を捨てる ということになるわけです。
すると今まで男系で数千年紡いできた伝統は消滅し、 それを拠り所にしていた天皇の権威も大きく低下する可能性があります。 保守派の方々が女系天皇反対を叫ぶのはこのためです。
世論を見ても、女系天皇容認というのは国民全体のコンセンサスを得られているとは到底言えず、 無理に誕生させれば、日本を1つにまとめてきた皇統が乱れ、 男系派と女系派で日本という国が分裂する可能性すらあるかもしれません。
逆に、天皇に否定的な左派系の方々や国内外の反日勢力にあっては、 意図的に日本の天皇の権威を低下させ、日本の国力を落とすために、 女系天皇を容認させて男系天皇が断絶するように画策している、という声もあります。
「伝統」をどのように定義するか
先述した通り、もし、男系にこだわらず、女系でも天皇を継げるようにした場合、 もはや男系女系という区別自体が意味をなさなくなります。 すると、権威の源泉たる伝統の範囲をどこまで認めるか、 という話になるのではないでしょうか。
仮に、 伝統ととらえる範囲を、「天皇と血がつながっていればよい」 とするならば、男系でも女系でもよい ことになります。
また、日本神話の世界では、そもそも天照大神という女神が皇室の始祖にあたります。 ここまで遡って考えると、むしろ男系にこだわるほうが俗な考えであり、 男系か女系かというこだわりがなくても、 血がつながっていれば天皇の伝統は保たれる、とする考え方もあるようです。 (まぁ天照大神は天皇ではありませんが、始祖ということで…)
つまり、 神武天皇から男系で紡いできた数千年の歴史を伝統と考えるか、 それより前の天照大神からの系譜全体を伝統と考えるか によって、取り得る結論が変わってくるのではないかと思います。
ただ、神話と歴史的事実は異なるというのもまた事実です。 もちろん日本人としては日本神話は大切なものなので、 自分たちで信じる分には構わないと思いますが、 国際社会においては、そのような神話にどこまで説得力があるか… というのは微妙なところでしょう。
つまり、 神話を拠り所にして男系女系のこだわりを捨てた場合、 歴史的事実としての男系の伝統に比べて天皇の権威が低下する可能性があり、 国益が損なわれる可能性がある ということです。
また、国際社会はともかく、 日本人自身の問題として考えてみても、やはり数千年の男系の伝統を考えれば、 今更この伝統を放棄するということには抵抗があることでしょう。 男系の天皇を主軸としてきた国のあり方が、根本から変わってしまいます。
さらに言えば、「天皇と血がつながっていればよい」としてしまうと、 現在の日本人の相当数が該当してしまうそうです。 それではあまり伝統としての意味がないでしょう。
もっとも、男系数千年の歴史といっても大昔の話なので、 その内容は古事記や日本書紀などの古典に依るところがあり、 神武天皇自体が実在したかどうかも議論があるようです (モデルとなった人物はいるようですが)。 このあたりは、そもそも神話と歴史的事実の区別があいまいなのです。 学問的な研究では、第十代の崇神天皇からが実在の人物とされているようです。
いずれにしろ我が国は、男系継承で二千年以上という長い伝統を保っており、 このことが大きな価値を持っていることに変わりはありません。
この伝統と権威を保ってきたことにより、 永きに渡り日本の国が1つにまとまって存続できてきたわけです。 この形を安易に変えてしまうと、国の安定性が損なわれてしまう可能性があるでしょう。
皇位継承における後継者問題
では、数千年続いてきた男系天皇の歴史において、 そもそもなぜ近年になって男系だ女系だと騒がれたのかというと、 後継者問題が持ち上がったからです。
男系で天皇を紡ぐためには、天皇の子供に男の子がいることが必須要件 になります。 しかし、天皇が数人子供をお作りになったところで必ず男の子が生まれるとは限りません。
そこで、後継者問題を解決するために「宮家」というシステムがあります。 宮家とは天皇の子供のうち、皇位を継承する子供以外の子供の家系で成り、 皇室に位置づけられます。
子供が男子なら男性宮家、子供が女子なら女性宮家となりますが、 日本は男系天皇を伝統としてきたため、普通、宮家と言えば男性宮家のことです。 法的にも、皇室の女性は結婚すると皇籍を離脱することになっているため、 女性宮家というのは存在しません。
宮家となった男子は皇位を継承しなかったとしても、 天皇の血筋を男系で継承しています。 このため、もし天皇の子供に男子が誕生しない事態が生じた場合、 宮家の男子が次代の天皇となり、男系を維持する というわけです。
戦前には、明治天皇など歴代の天皇から連なるいくつかの宮家がありましたが、 戦後、GHQの指令により、秩父宮、高松宮、三笠宮の三直宮家以外が廃止されてしまいました。 いずれの宮家も後継者となる男子がおらず、 秩父宮は途絶、高松宮と三笠宮も途絶する運命にあります。
現在、宮家として機能しているのは、戦後新しくできた秋篠宮家のみとなっています。 男系の維持には心許ない状態です。
実際、皇太子殿下(つまり次代の天皇陛下)のお子様は女子(愛子様)であり、男子がおりません。 皇太子殿下の弟である秋篠宮殿下に男子(悠仁様)が誕生したため事なきを得ましたが、 今後また同じような問題が起こる可能性は高いでしょう。
つまり、 戦後、宮家の規模が過度に縮小された結果、 現在、男系の維持に支障をきたすような状況になってしまっている ということです。
時折、「男系の維持は側室制度がなければ不可能だから現代にはそぐわない」 といった主張を見かけますが、これは根拠としては弱いと言えるでしょう。 なぜなら現代は医療が発展し乳幼児の死亡率が低いこと、 また宮家を4つ以上保てば確率的に男系の維持にほとんど支障は生じないため、 必ずしも側室は必要ないからです。
「女性天皇」とは?「女系天皇」との違いは?
この話題ではしばしば、「女性天皇」という言葉も登場します。 「女系天皇」と「女性天皇」では、言葉は似ていますが全く意味が異なります。 この二つを区別することは非常に重要です。
天皇を皇統と性別で分けると、4パターンに分類できます。
- 男系の男性天皇
皇統は男系で紡ぎ、男系男子の息子が天皇に即位するケースです。 - 男系の女性天皇
皇統は男系で紡ぎ、男系男子の娘が天皇に即位するケースです。 - 女系の男性天皇
皇統を女系で紡ぎ、女系女子の息子が天皇に即位するケースです。 - 女系の女性天皇
皇統を女系で紡ぎ、女系女子の娘が天皇に即位するケースです。
男系維持という観点では、1と2の選択肢があります。 現在は1だけですが、かつては女性天皇が存在したこともあり、 1に加えて2も認めてよいのではという意見があります。
3と4はいずれも女系になるため、 男系維持の観点からするとNGになります。
つまり、 「天皇に即位するのが男性か女性か」というのはあまり大きな問題ではなく、 「皇統を男系で紡ぐか女系で紡ぐか」が重要 なのです。
単に「男性天皇」「女性天皇」と言ってしまうと男系か女系かが不明なため、 話が混乱しがちになります。 上記4パターンのどれの話をしているのか、 整理しながら議論する必要があるでしょう。
一部マスコミでは、「世論は女性天皇賛成 → 世論は女系天皇賛成」と、 意図的に(?)ミスリードしようとしているものも見受けられます。 保守派でも「女性天皇」に肯定的な人は少なくないのですが、 そのことと「女系天皇」に肯定的かどうかは全く異なります。
またそもそも、この問題にあまり詳しくない大多数の一般人は、 女性天皇も女系天皇も「同じようなもの」と思っているわけです(私もかつてそうでした)。 そうすると世論調査などで、 事の本質を理解することなく、男女同権的なノリで、 「女○天皇」に「何となく賛成」してしまうことでしょう。
つまり、国民が女性天皇と女系天皇の違いを理解していないと、 世論が歪められてしまう可能性があるわけです。
今後の皇統の維持について
日本において古来より続いてきた皇統を今後も維持ししていくためには、 どうすればよいのでしょうか。 いくつか案が出ています。
なお、皇室については皇室典範という法律があり、 制度を変えるためには皇室典範を改正する必要があります。
旧宮家の復活
戦後廃止された旧宮家を復活し、 かつてのように男系継承者の候補を増やす、という案です。
ただ、現在の旧宮家は民間なので、これを皇籍に復帰させるための 予算や環境整備が必要になります。 その辺がクリアできるなら、男系維持のための最も有力な方法でしょう。
旧宮家から皇室への養子縁組
現在、天皇家に養子を迎えることは認められていませんが、 旧宮家から現在の皇室に養子縁組できるようにすることで、 男系を維持するという案です。
しばらく皇室から離れていた旧宮家の男子が養子となった後、 そのまま天皇になるのは違和感があるようであれば、 一旦皇室の女子と結婚させ、その子供に皇位を継承させるといった方法もあります。
この方式のメリットは、旧宮家の復活に比べて、 現状変更が少なくて済むことでしょう。
女性宮家の創設
宮家といえば男性宮家でしたが、これの女性版を作ろうという案です。 現在、皇室の女性は、民間の男性と結婚すると皇籍を離脱することになっています。 ここを改定し、女性でも宮家を創設できるようにするということです。
この案の問題点は、 男系が途絶する可能性がある ということです。 女性宮家の家系は天皇の血筋を引くとは言え、男系ではありません。 よって、女性宮家から天皇が誕生した場合、 数千年間男系で紡いできた歴史がそこで一旦途絶えることになるわけです。 仮にその先の天皇が男性宮家の男子に戻れば一応男系は維持できますが、 その保証はありません。
何れにしても、 男性宮家の数を確保しなければ、男系の後継者を安定的に維持することは難しい のです。 女性宮家を創設しても、男性宮家が途絶えてしまえば、結局男系が途絶えてしまいます。 そのままなし崩し的に、女系天皇の容認へとつながる可能性があるでしょう。
女性宮家は、伝統の範囲を拡げて男系女系の区別をなくすということであれば、 後継者問題に対する一つの解にはなるでしょう。 しかし、男系の伝統を重視するなら、この選択肢は取れないでしょう。
なお、女性宮家創設は天皇陛下のご活動(催し物への出席等)のご負担を軽減するため、 という話もありますが、それは後継者問題とはまた別の話です。
憲法に定められた天皇陛下として必要なご活動は国事行為のみであり、 また天皇陛下以外の皇族としても「この催しに参加しなければならない」というものが 定められているわけではありません。
陛下がご多忙なのは国事行為が理由ではなく、 本来参加義務の無いその他の多くの活動に参加されているからご多忙なのです。 これは陛下のご意思もあるとは思いますが、 スケジュールを決めているのは宮内庁です。 そこには様々な政治的思惑も絡んでくるわけです。
つまり、 「 国事行為以外へ天皇陛下がご参加 → ご多忙でご負担が… → 女性宮家を創設して皇族の人数を保つ → 陛下の代わりに皇族として女性宮家の方々にご参加頂こう 」 ということです。
そしてここで女性宮家を創設するとなると、 結果的に後継者問題にも絡んでくる、という構図です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
天皇の男系女系の皇位継承の問題は、 一般にはわかりにくいところもありますが、 日本の国のありかたを決める上で大事な問題であると思います。 私もまだまだ不勉強ではありますが、 理解を深めるために主要な論点をまとめてみました。 本記事が少しでもこの問題についての皆様の理解の助けになれば幸いです。
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