「売価に対し積算評価の低い物件を買うと債務超過になる」という話は正しいのか?

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はじめに

不動産投資において、資産、純資産、貸借対照表(BS)、債務超過、担保評価、積算評価、など、 いわゆる「資産」やそれに関連する話が出てくる機会は多いですよね。

しかし私は常々、これらを扱った言説は誤解に基づくものや、論理が不明なもの、 銀行員の話を誤解釈しているもの、などなど、 かなり混乱をきたしていると考えています。

これら誤解や混乱の多い「資産」周りの話を整理して示していきたいと思います。

今回は、「積算評価の低い物件を買うと債務超過になる」という話を取り上げます。

「売価に対し積算評価の低い物件を買うと債務超過になる」という話は正しいのか?

よく「積算評価の低い物件を買うと債務超過になる」という話、ありますよね。 それで融資がでなくなって次の物件が買えなくなる、みたいな。

しかし、この話にはおかしな点がいくつもあります。 おかしな点がいくつもあるにも関わらず、 不動産投資業界ではそれが一般的に正しい話であるかのように扱われています。 ここでその間違いをズバリ指摘していきたいと思います。

決算書のBS(貸借対照表)に載っているのは何か?

まず事実として、決算書のBS(貸借対照表)の資産欄には、物件の「簿価」が記載されます。 簿価は取得価額がベースであって、積算評価ではありません。

もうこの時点で、積算評価でBSの債務超過を語るのは話がズレていることが分かります。

「債務超過」とはどういうことか?

決算書のBSにおける債務超過とは、資産より負債が大きい状態を指します。 しかし、そもそもBSに積算評価は登場しないため、 積算評価の高低は決算書のBSの債務超過とは直接関係ありません。

さらに、 債務超過とは事業者全体の資産と負債のバランスを見た時の話であるため、 物件の購入単体を見て債務超過云々を語るのはナンセンスと言えます。

また、物件購入の時点では資産額と負債額はバランスするため、 その時点で「資産超過」も「債務超過」もあり得ません。

そしてこれは頭金を入れようが入れまいが関係ありません。 頭金を入れれば現金が減りますので、負債は減っても資産も同じだけ減ります。

「簿価」と「評価」が混同されている

これらの誤解が生じる背景ですが、銀行融資における「担保評価」の話と混同されているからと思われます。 「評価」と「簿価」をゴチャゴチャに混同しているケースが非常に多く見受けられます。

積算評価は本来、物件に対して銀行が行う担保評価の文脈の話であり、決算書の文脈の話ではありません。 もっと言えば収益還元評価も同様で、およそ「評価」と名のつくものは推測でしかなく、 評価法や評価者によってブレが生じるため、値も一意に定まりません。

一方簿価のほうは、取得価額をベースに減価償却した値となり、 値が一意に定まります。

「修正BS」「実態BS」という独自理論が混乱に拍車をかけている

BSについて、銀行では自行での評価をベースとして資産額を計算しなおした「修正BS」「実態BS」なるものが使われる、 という話があります。

しかし、それは決算書のBSではなく、あくまで銀行が勝手に作成した「BSもどき」でしかありません。 この「BSもどき」を、本来のBSであるかのように扱った言説が非常に多く、混乱に拍車をかけています。

この「BSもどき」は、銀行が担保評価を行う文脈で使われるものですが、 評価と簿価は別物であり、事業者のBSはあくまで決算書のBSです。

「評価」と「簿価」のどちらが正しいか?

ここで「評価」と「簿価」のどちらが正しいのか? という話があります。

「評価」は取得価額とは関係なく、「推測」をベースとしています。 その推測のやり方も複数あり、値は一意に定まりません。 積算評価の場合、土地の相続税路線価と建物の新築価をベースに計算しますが、 現実の価格とかけ離れることも少なくありません。 都市部では「売価>積算」となり、地方や郊外では「売価<積算」となる傾向があります。

このように、現実の価格と恒常的にズレてしまうような評価は、 果たして正しい評価と言えるのでしょうか?

そしてズレた評価を根拠とし、実態を表しているとは言えない「BSもどき」を「実態BS」などと呼ぶから、 話が余計に混乱するのではないでしょうか?

一方「簿価」は、取得価額という「事実」をベースとした値です。 推測ではなく実際の取引価格から導かれるわけですから、 事実としての重みがあります。 (その価格が「妥当かどうか」という問題はありますが)

ただし、簿価は年数が経つに連れ、償却された分だけ減価していきます。 この償却ペースは、売買契約上の土地建物割合や築年数で可変するため、 年数が経つほど簿価の信頼性は薄くなっていく傾向はあります。

融資継続のために大事なのは黒字で決算すること

融資継続のためには、財務評価が良いこと、 具体的には決算書のBSがプラス、つまり純資産が多いほうが有利となります。 純資産が多いとは、自己資本比率が高いということを意味します。

この点において、BSの資産を増やすのは、PLの利益(黒字)です。 期末BSの資産には、期初BSの資産に期間中PLの利益が加算されるからです。

黒字経営を続けることにより、純資産が増えていき、融資を受けやすくなる体質が作られていきます。

よくある勘違いとして、 「売価より積算評価の高い物件を買えばBSが良くなり融資を受けやすくなる」 というのがあります。

しかし前述したように、積算評価はBSとは直接関係ありません。 もし積算評価でBSが決まるなら、「売価<積算」の物件さえ見つければ、 誰でも簡単に物件を買い続けられてメガ大家になっているはずですが、 現実的にそうはなっていませんよね。

積算評価は購入物件の担保評価を測るもので、 積算で評価する銀行においては、融資額に影響することが多いと言えます。 そういう意味では、融資を受けやすくなるという点では間違ってはいません。

しかしこれは担保評価の文脈であって財務評価の文脈ではないため、 「積算評価の高い物件を持っていれば、純資産の多い優良な事業者と評価されて融資が出る」という意味ではないことに注意が必要です。 基本的に担保評価と財務評価の文脈は異なるものであるという点を忘れてはいけません。

まとめ

  • 「積算評価の低い物件を買うと債務超過になる」という言説は、決算書における簿価と、銀行における担保評価を混同しており適切ではない
  • 「簿価」と「評価」をきちんと区別し、「決算書のBS」と「銀行作成のBSもどき」を区別しよう。担保評価の話は融資上重要な要素ではあるが、BSの話と混同しないようにしよう
  • 融資継続のためには自己資本比率が高いことが重要だが、それは積算評価の高い物件を買えばよいというものではなく、黒字決算でBSの純資産を増やしていくことが大事
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