「積年利回り」という考え方

はじめに

不動産投資において、「利回り」というのは最もポピュラーに使用される指標であるかと思います。

しかし、この利回りというものは、簡便で使いやすい反面、単年の指標であるため、その物件の長期的な収益性を測るには欠陥を抱えていると常々感じていました。

そこで、物件の稼働年数に着目し、「積年利回り」(私の造語です)というより実用的な指標を考案してみました。

積年利回りのコンセプトは、 「簡単に使えて、築浅も築古も公平に比較できる」 です。

「利回り」の問題点

利回りだけで測ると、だいたい築古物件のほうが高利回りになります。 しかし、利回りは1年間の収益性しか見ていないため、 その物件があと何年間稼げるのかという視点が欠如しているのです。

以前、 「築古高利回りはお得なのか」 でも考察しましたが、ここに、利回りの抱える根本的な問題があります。

「積年利回り」とは

積年利回りとは、その物件が朽ちるまでにどれくらい稼げるのか、という視点で 収益を数式化したものです。

考え方は非常にシンプルで、利回りに稼働年数を掛けるだけです。 以下の式で表されます。

積年利回り=利回り×稼働年数

これにより、築浅の低利回り物件と、築古の高利回り物件をより公平に比較することが可能となります。 なぜなら、 築浅は利回りは低いが寿命が長いため稼働年数が長く、 築古は利回りは高いが寿命が短く稼働年数が短いわけですが、 利回りと稼働年数の両方を式に反映させることで、 より実用的な収益予測が可能となるからです。

寿命に関しては、 収益耐用年数 の考え方で概算すればよいでしょう。

利回りは物件価格に対するパーセンテージですので、 これを積み上げていくと、 その物件が、物件価格に対して最終的にいくら稼げるか ということを算出することができるというわけです。 これが積年利回りということです。

例をあげてみましょう。

例1.「築浅、利回り10%、稼働年数25年」の積年利回り

築浅低利回りの例を見てみます。

積年利回り =利回り×稼働年数 =10%×25年 =250%

これを図解すると以下のようになります。

利回りは10%とそこそこですが、寿命が長いため、 最終的に物件価格の250%稼げるという計算になります。

念の為申し上げておきますが、 ここでは運営費や空室率、家賃下落などの個別的な事情は考慮していません。 その点は利回りと同じです。

例2.「築古、利回り15%、稼働年数10年」の積年利回り

築古高利回りの例を見てみます。

積年利回り =利回り×稼働年数 =15%×10年 =150%

これを図解すると以下のようになります。

利回りは15%と高いのですが、寿命が短いため、 最終的に稼げるのは物件価格の150%という計算になります。

これらを見比べて分かる通り、 利回りだけの単純比較だと築古高利回りが有利でも、 積年利回りで計算すると、そうでもないことが分かります。

どのくらいの積年利回りが望ましいか?

積年利回りは、100%で物件価格と同じになりますので、 100%を切ってしまうと、収益で物件価格を補えないことになります。 なので最低でも100%は必要でしょう。 じゃあ100%を上回っていればそれでよいかというと、そうでもありません。

積年利回りは運営費や空室率、家賃下落などを考慮しないため、 ここで出る値は「MAXで稼げた時」ということになります。 従って、基準値は高めに設定する必要があります。

私は、「最低200%以上」「理想は300%以上」、と考えています。

200%、つまり物件価格の2倍稼げる計算なら、 運営費や空室を差っ引いても、 マイナスになることはほぼないのではないかと思います。

なお、指標の立て方と基準の作り方ですが、 私は以下の2つのアプローチがあると思っています。

  • より正確に指標を立てて、ギリギリの基準を作る
  • ざっくりと指標を立てて、余裕を持った基準を作る

正確に指標を立てる場合は、運営費やら空室率やらを加味し、 基準も120%とかギリギリのところで線引します。

ざっくり指標を立てる場合は、個別の事情は考慮せず、 そのかわり基準を200%など余裕を持ったところに設定します。

積年利回りは後者です。 どちらもメリデメはありますが、私は後者のほうが好きです。 なぜなら、物件を判断するときに暗算でパッと計算できて、使いやすいからです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

私はこの考え方を使いだしてから、 収益物件に対するジャッジがかなりラクになりました。

なお、ここで見ているのは物件そのものの収益の話なので、 土地値や、投資家に入るキャッシュフローを測るのはまた別の話です。

皆様の不動産投資にお役立て頂ければ幸いです。

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