はじめに
世の中、不動産投資が大流行(?)していますが、 皆さん、自分の不動産投資の「目的」について、 しっかりと考えたことはありますでしょうか。
セミナー等で講師をしていると、受講生の方から色々ご質問を受ける機会も多いのですが、 「○○と△△、どちらが良いのですか?」 「□□って、良いんですか悪いんですか?」 というご質問がとても多いです。
世の中に絶対的な良し悪しはなく、それは不動産投資の世界でも同様です。 良し悪しを決めるのは、自分の「目的」なのです。 「自分の目的に合っているかどうか」を考えることで、はじめて良し悪しを判断することができます。
目的とは、「自分は不動産投資に何を求めているのか?」 「不動産投資を通じて何を実現したいのか?」ということです。 さらに言えば「自分はどうなれば幸せか?」ということです。 ここがしっかりしていないと、 知識をつけるほどに迷う ことになります。
このあたりを、整理しながら考えてみましょう。
※本コラムは私の個人的な見解を述べたものです。 一つの意見としてお読み頂ければ幸いです。
目的と方向性を考える
「目的」というものは、「方向性」を持っています。 旅で言えば、目的地に着くためには目的地の方向へ向かって歩かなければなりません。 以下、方向性を以下の4つの軸に整理して解説していきたいと思います。
- キャッシュフロー ←→ 資産バランス
- 現在 ←→ 将来
- 経営 ←→ 現場
- 大規模 ←→ 小規模
ちなみにどの方向性が絶対的に良いとか悪いとかという話ではありません。 それぞれの方向性の先に、自分の目的、つまり自分の求める幸せがあるかどうか、 ということを考えましょう。
なお、言葉が似ているので混同しがちですが、「目的」と「目標」は異なるものです。 目標はいわばマイルストーンのようなものであり、 目的地へたどり着くまでの量的な目安として設定されるものです。 もちろん相互に関連するものですが、今回述べるのは目標ではなく目的の話です。
キャッシュフロー指向か資産バランス指向か
キャッシュフロー指向とは、金持ち父さん風に言えば 「毎月ポケットにお金が入ってくる」 状態を重視する方向性です。
また、資産バランス指向は、いわゆる BS(貸借対照表)とかキャピタルゲインとか そういったものを重視する方向性です。
例えば、同じ物件を買っても、融資期間を長くとればキャッシュフロー重視になります。 メリットとしては月々の返済額が減って、手元に残るお金が増えます。 ただ、残債の減りが遅いのと、金利の支払いが増えるのがデメリットです。
逆に、融資期間を短く取れば資産バランス重視になります。 メリットとしては残債の減りが早く、金利支払いも抑えられる、というのがあります。 デメリットとしては月々の返済額が多く、収支が厳しくなることです。 完済なり売却なりの前に、収支が回らなくなって破綻しないように注意が必要になります。
どちらが良いかは自分の目的によります。 ローンは長くてもすぐに毎月お金が欲しいのか、 早めにローンを返して無借金の状態で家賃収入が欲しいのか。 ある段階で売却をするのか、持ち続けるのか。 といったことを考えて投資を行いましょう。
現在指向か将来指向か
前述のキャッシュフローの話にも絡みますが、 投資の仕方によってお金が手に入る時期が異なってきます。 そしてどの時期にお金を得るのがよいのかは、 現在を重視するのか将来を重視するのかによって決まります。
例えば、 サラリーマンを引退したい という人などは現在指向といえるでしょう。 現在の自分の時間を大事にすることが幸せであるという姿勢です。 そのためには、すぐに毎月お金が入ってくるような投資スタイルが必要になります。
逆に、 定年後の年金がわりにしたい という人は将来指向といえるでしょう。 今45歳だとして、定年まではキャッシュフローがなくても、 15年後、ローンを完済した後からお金が沢山入ればいい、というスタイルです。 安心安定の老後を確保することが幸せというタイプです。
あるいは、持っている間はキャッシュフローがなくても、 5年後10年後に売却して稼げればよいという考え方もあるでしょう。 毎月の小さなお金より、大きくまとまったお金に魅力を感じる人はこちらでしょう。 ただ、転売で稼ごうとするのは投機的な要素が強くなりますので、その点は認識しておきましょう。
経営指向か現場指向か
経営者タイプなのか現場の職人タイプなのかという方向性です。
経営者タイプは、 人をうまく使っていきたいタイプ です。 物件管理は管理会社へ任せ、リフォームは職人に任せます。 自分は指揮をとることに専念するのです。
逆に現場タイプは、自主管理やセルフリフォームなど、人に任せず 何でも自分でやりたいタイプ です。
どちらが自分の性にあっているかをよく考えることが肝要です。 例えば、自分が経営者タイプなのに、セルフリフォームが流行っているからといって、 慣れないリフォーム作業に手を出しても、あまりうまくいかないでしょう。 経営者にとっては管理もリフォームも手段なのであって、それ自体が目的ではないからです。 人をうまく使って数字を上げていくほうが幸せになれるでしょう。
逆に、自主管理やセルフリフォーム、それ自体が楽しいという現場タイプの人は、 どんどん自分でやればいいと思います。 楽しくリフォームできてお金も節約できるならば、それは幸せなことと言えるでしょう。
大規模指向か小規模指向か
不動産投資においてどれくらいの投資規模を目指すのかという方向性です。
大規模指向は、何十棟とか何百室とかを所有したいという、いわゆる「メガ大家」的な方向性です。 「大きければ大きいほどいい」 という、男らしいというか、とても分かりやすい方向性です(笑
収益物件は物件ごとに収支的な凸凹があるものですが、 ある程度規模が大きくなると、大数の法則により経営が安定する、などのメリットがあります。
この方向性を進めるためには、現金だけでは不可能ですので、 多額の融資を受ける必要が出てきます。 従って、物件の担保評価の高さなど、 銀行が喜ぶような要素を重視していく形になるでしょう。
ただ、規模が大きいだけに、 やり方を間違うとあっという間に破綻する可能性があるのが注意点です。 特に表面上の家賃収入や担保評価ばかりを見ていて、 返済比率を見ていないようなやり方は要注意と言えます。
また、よく陥りがちなのが「規模の拡大自体が目的化している」パターンです。 世の中「資産○億円だからすごい」「家賃収入○千万円だからすごい」みたいな風潮がはびこっていますが、 そこには「そんなにたくさん、何のために必要なの?」という根本的な観点がすっぽり抜け落ちているのです。
規模を拡大するだけなら、戸数の多い中古マンションでも買えば簡単に増やすことができます。 しかし「たくさん持っている」ことと、「幸せである」こととは、直接関係ありません。 中には「たくさん物件を持てば、すごい人と思われて幸せになれる」と考える人もいるかもしれませんが、 自分の幸せを他者からの評価に依存している時点で、あまり健全な精神状態とは言えないでしょう。 投資というものは、中身と目的が大事なのであって、必ずしも規模が大きければいいというものではないのです。
では、小規模指向はどうでしょうか。 いわゆる「副業」とか「プチ大家」とか「幸せな小金持ち」的な方向性です。 不動産投資というものは、誰でもかれでもが大規模な大家になりたいと思っているわけではなく、 自分が怖くない範囲で、 月々5万円の副収入を得て気楽に暮らしたい と考える人もたくさんいるわけです。
ただ、サラリーマンの引退を目指しているのに、 区分マンションの購入という小規模な投資を検討している方もいます。 区分を数戸買ったところでお小遣いくらいにはなるかもしれませんが、引退することは不可能でしょう。 これはこれで目的と規模感が合っていないのです。
ちなみに私の場合は、「サラリーマンを引退して自由に生きる」ということを実現したかったため、 その実現に必要な規模を自分で計算し、アパートを5棟37戸まで買い進めた段階で引退しました。 規模感で言えば、小規模でも大規模でもなく、中規模といったところでしょうか? ただ、他人から見てこれが多いのか少ないのかはどうでもよく、 自分の目的を達成するために必要となる規模を計算し、 そこまで買い進めたというだけの話です。 つまり投資規模というものは手段の結果に過ぎず、 目的は自由に幸せに生きることだということです。
いずれにしても、 自分に必要な規模感を適切に把握する ことが大事となるでしょう。 自分が幸せに生きるためにどれくらいの規模が必要なのかをよく考えて投資していきましょう。
まとめ
- 投資手法の良し悪しを判断する前に、投資目的をよく考えよう
- 不動産投資を通じてどういう状態になれれば幸せなのかを考えよう