はじめに
えー、、、若干過激なタイトルをつけてみましたが(^o^;
「惑わされる」というのは「必要以上に気にしすぎる」という意味です。 私自身、収益不動産投資の過程で様々な物件を調査しては、 積算評価に惑わされていた一人です。 「積算価格が売買価格を上回ってないと売却時に云々」とか 「利回りはいいけど積算が出ないから債務超過でBS毀損が云々」とかとか。
でも、色々考えているうちに、収益不動産投資と積算評価の関係について、 整理がついてきました。 そこで、積算評価の扱いに悩む人々に向けて、 私なりの考察結果を書いてみたいと思います。
ちなみに「積算評価って何?」という方は、先にこちらをどうぞ。 → 積算評価とは
なお、ここではインカムゲイン狙いの投資スタイルを前提としています。 つまり家賃収入による毎月のキャッシュフローを得ることが目的です。 物件の値上がりによるキャピタルゲイン狙いの投資スタイルは前提としていません。
※本コラムは私の個人的な見解を述べたものです。 一つの意見としてお読み頂ければ幸いです。
積算評価の持つ意味を再考する
一般的には「積算評価は高いに越したことはない」と考えられていると思います。 でもそれって本当にそうなんでしょうか…?
私はそうは思いません。 理由を以下に述べます。
積算評価と収益力は無関係
考えてみれば当たり前の話なんですが、まず第一に、 いくら積算評価が高かろうと、収益力には何の関係もないということです。 従って、インカムゲインをベースとした投資では、 積算評価の高さ自体は何の役にも立ちません。
ついでに言えば、積算評価と売買価格も直接関係ありません。 高積算評価だから高価格で売れるかと言えば、そんなことはないわけです。 積算評価はあくまで参考値でしかありません。
積算評価はいい加減?
いい加減…と言うと語弊があるかもしれませんが(^_^;
積算評価が収益物件の価値を正しく表しているかといえば、私はかなり「???」だと思います。
積算評価の中身は、土地価格と建物価格の合算なわけですが、順番に見ていきましょう。
まず土地価格のベースは路線価です。 路線価は「その道路に面している土地は1㎡あたりいくら」という 極めて簡便な(いい意味で言えばシンプルな)評価方法です。 その土地の形状とか、道路に対して北側なのか南側なのかとかは、関係ありません。
また建物価格は、新築価に延床面積を掛け、経年数に応じて減価しただけのものです。 RC(鉄筋コンクリート)の高層マンションでもドンと建てれば、計算上は高積算評価になります。 それが都心の一等地に建っていたとしても、地方の田舎の田んぼの中に建っていたとしても、 建物価格は(積算評価上は)同じです。
何が言いたいのかというと、 積算評価の中に収益性を直接的に測れる要素はないということです。
まぁ土地価格に関しては、路線価の根拠は公示価格であり、 公示価格は一般市場の売買事例が考慮されているため、 一応ざっくりとしたフィードバックは働いていると言えるのかもしれません。 しかし、一般市場の売買価格は必ずしも収益性だけで決まるわけではないため、 結局、あまりアテにはならないでしょう。
積算評価が高いと税金が高くなる
収益不動産投資にとって、最も大切なのは収益力です。 積算評価の高い物件に収益的なメリットはありません。 むしろ、積算評価が高いような物件は固定資産税も高くなるので 収益的にはむしろデメリットと言えます。 (いわゆる積算評価の計算方法と固定資産税評価額の計算方法はイコールではありませんが、 いずれにしろ資産評価が高いと税金も高くなるということです。)
積算評価が高くて嬉しいのは銀行と役所だけ
ここまで「積算評価なんて…」的なことを書いてきましたが、 じゃあなぜ、積算評価にこだわる(場合がある)のでしょうか?
それは一言で言えば、銀行が積算評価を重視するからです。 融資を引いて物件を買う場合、融資可否の判定をするのは銀行ですから、 当然ながら銀行側の考えに合わせる必要があるわけです。
逆に言えば、それだけの理由です。
積算評価が高くて嬉しいのは、担保を取りたい銀行と、固定資産税を取りたい役所だけです。
なぜか収益力と無関係なものを重視する銀行
銀行には銀行の考え方があると思いますので、 こんなところでいちいちケチをつけても仕方ないのですが(笑)、 私は収益物件は収益を生み出してナンボだと思っています。
どうも銀行は、積算価格を過大評価し、 収益力を過小評価している傾向がある気がしてなりません。 どんなに収益の出る物件でも、積算の7割までしか融資しない、とか。 (もちろん銀行によって融資基準は異なりますが、傾向として…)
その銀行も、借主から毎月支払われる利息で食っているわけですが、 その原資は物件から得られる家賃収入なのであり、 つまりは物件の収益力をアテにしているわけです。 決して物件のふくみ資産やら売却益やらが返済原資になっているわけではありません。
逆に、売却益をアテにするのは借主が破綻した時です。 借主が破綻した場合に、物件を競売にかけて残債分を回収するわけです。 でも不動産がいくらで売れるのかは、実際に売ってみないとわかりませんよね。 バブル崩壊のときなどは、競売にかけても残債が回収できずに 不良債権化してしまいました。
評価方法おかしくない?…でもそれが現実
そもそも、 収益不動産経営の安定性は積算価格ではなく収益力にかかっている わけですから、 評価の優先順位が違うと思うんですよね。 なんでもっと収益力を重視しないのかと。
私は、収益物件と実需物件(賃貸ではなく所有を目的としたもの)が 同じモノサシで測られていることが混乱の一因と考えています。 実需物件は、そこに住む人が感じる価値が第一ですが、 収益物件は、どれだけ収益を生むかが第一です。 視点が違うんです。 なのに、実需物件も収益物件も「不動産」で一括りにされてしまっているんでしょうね。
それと、収益は色々な要素で変動するため、積算評価より難しい、 というのもあるのでしょう。 銀行員は投資家ではないし、不動産投資の知識があるわけでもない。 オマケにメチャクチャ忙しい(らしい)。 でも積算評価なら、簡単かつ定量的に計算できますから。 まぁそう考えれば積算評価が幅を利かすのも合理的といえば合理的です。 銀行の立場から見れば、ですけど。
投資戦略によって判断が分かれる
結局、自分がどういう投資戦略で進んでいくかによって、 積算評価の位置づけは変わってきます。
融資を使うなら積算評価は無視できない
先に述べたように、積算評価が高くても投資家にとっては嬉しくないのです。
そうは言っても、銀行は担保力として積算評価を重視してきます。 なので、銀行から融資を引くなら積算評価は無視できないわけです。 加えて、借主のBS(貸借対照表)で債務超過が云々、の話も同類で、 借主が破綻したとき、手持ちの資産を売却してどれだけ回収できるか、 というところを評価してきますので、BSの毀損も無視できません。
ただ、この積算至上主義(?)のおかげで、収益力は二の次で、 積算評価の高さだけで融資が出ることがありますが、これは危険です。 2007年プチバブルの頃に、収益力が低くて積算評価は高い一棟RCをフルローン組んで買った人たちが 苦しいことになっているのを見ればわかりますね。 いくら積算が高かろうが、BSが見かけ上良かろうが、 収支が回らず破綻してしまっては元も子もないのです。
融資を使わないなら、積算評価にこだわる理由はない
今後、融資を使わず現金投資で進めていく場合には、 積算評価にこだわる理由はないと言えます。 むしろ積算評価の低い物件のほうが固定資産税が安くなります。 融資を引く場合に比べて投資拡大のスピードは遅くなりますが、 積算評価と収益力のジレンマからは解放されるでしょう。
融資を使うか、現金でいくか、これは投資手法の選択の話なので、 どちらが良い悪いという話ではありません。
出口戦略は?
これは物件によって事情が異なるので一概には言えませんが、 次の買い手への銀行融資のつきやすさを考えれば、 積算評価が高いほうが売りやすいとは言えるでしょう。 また、景気の動向によっては、高値で売れるかもしれません。 まぁそれは、売ってみなければ分からない話ではありますが…
なお、積算評価の高低に関係なく、収益力の高い物件の場合、 売却までに家賃収入でしっかりと利益が取れますので、 そもそも売却益をアテにする必要性があまりないと言えます。
もちろん売却益が狙えるならそれに越したことはありませんが、 それはあくまでボーナスということです。
まとめ
- 積算評価と収益力は無関係
- 積算評価だけを見て投資するのは危険
- 積算評価が高くて嬉しいのは銀行と役所だけ
- 銀行融資を使うつもりなら、積算評価は無視できない
- 自分の投資戦略に合わせて、何を重視するかを考えよう